10月23日

頭の中に一匹の猿が居た。

猿は暗い牢内で、数の足し引きや単語の発声練習に興じている。

さすれば、鉄格子の外より金属棒がゆっくり差し込まれ、

「馳走をくれてやろう」

の一言で、猿は豪勢な食事にありつけたからだ。

 

猿は常に不安を感じている。

いつの日か、臓物にありつけなくなるんじゃないか、という意識で数を足し引きする。

不安の虫ならぬ、不安の猿がいつもいつも檻の中でひくひく泣きわめく。

 

と書いたところですごく疲れた。

諱のない言葉に意味をもたせようと、必死に頭を使って、それらしい文章を構築しようとしたためだった;

 

不安の猿の眠る牢の隣、少し離れたところに木星の机と、手製のチタン合金製パイプ椅子に座り、銀縁色の眼鏡を鼻に押し当てた、チンパンジー、学名で言うところの、Pan troglodytesは、毎日毎日不安の猿についての記録をつけようとしていたが、この木星生まれの猿は不慣れな言語体系を用いることに嫌気が挿し、句読点を何行か毎に付けるのも諦めて、椅子にもたれ掛かって、古い旧式のコンピュータ脇にある、火星の電子模型をくすぐって、火星表面にあるセクター9のオーストラリアコロニーを壊滅させた。

 

日記をつけるんだった。

10月23日。

希望を感じない日だった。

明日外に出るのがしんどくてしょうがない。

オーストラリアコロニーを壊滅させる遊びに興じたい。

舞台は22世紀。火星に人類が移住して、火星表面に居住地を作っているところだ。

火星の創造神たるプレイヤーは人類の殲滅を目的として、様々な天変地異を起こす、的なそういうアレ。

さっきいったことと矛盾するが、希望を感じていないことはない。がやる気は出ない。

焦る必要は多分無いが、不安の猿が五月蝿い。

しばしば、余計なところでビクつくんだよな、こいつは。

間違ったことはしていないから堂々としてればいいものを。

不安の猿の顔色伺いがムカつく日だった。

とりあえず地盤を固めたい。

意味がわかんないので、この日記公開したくないが、

今日の心理状態はこんなもんだったということで記録を。

地球には人がいっぱいいるけど、火星にはまだ誰もいないんだね。